toggle
2023-11-11

臨床栄養11月号のブックレビューから: “「共食」と「孤食」の心髄探しの旅の過程が綴られた「旅行記」”と

評者Yは別紙で、“読み進めるほどに、著者の「旅に同行」させてもらっているような気持ちになった”と、付記してくださいました。旅の「過程」が綴られた「旅行記」にこめられた意味の深さが心に響いてきました。

医歯薬出版「臨床栄養」143巻6号

響きの源泉は何かと考えてみました。「共食と孤食 50年の食生態学研究から未来へ」(以下、本書)で共有したいのは研究の「結果や解答」よりも、解答探しの「プロセスの共有」であること。共食についても同じで、共有したいのは食事の内容や心身の健康への成果よりも、「食事を食べる・準備する・情報交流する・生きるなどの試行錯誤のプロセス」なのだ。だから、共「食事を食べる」についても、「何をどのくらい食べたかの結果」よりも、「食事を食べる行動
のプロセス」の共有であることの、確認と期待だという実感でした。

本書の第1、2章に書いたとおり、「共食と孤食」研究、その基調となる「食生態学」の構築の旅は、私たちにとって厳しい・険しい・苦しい・試行錯誤・迷いながらの旅路ですので、崩れ落ちそうになる節々で、多くの人や組織に支えていただきました。再度感謝申し上げる次第です。

「臨床栄養」の発行所医歯薬出版も、「旅行記」の視点で本書巻末の「参考文献・資料」(本書296-303ページ)を見直すと、旅の出発初期から、支えてくださった一つです。
ⓐ 1987年初版から今も大学の教科書や専門家研修等で活用されてきた『食生活論』は「食生態学」原論にあたる1冊です。本書では各章の冒頭(1章16)-③、2章1)、5章2)、6章1)他)から道案内役を担っています。
ⓑ ⓐの出版はそれまでの苦難の旅路で、絞り出すように書いた、いくつかの論考や概念図等を「種」にして書くことができました。日陰にあった種なのに、公表の機会を提供してくださいました。
初回は、(本書では紹介できなかったのですが)「臨床栄養」(月刊)1971年3月から隔月12回の連載「栄養指導シリーズ」でした。編集担当者に「言いたいことを遠慮なく書いていい」と言っていただき、そのままを受け止め、実行したので、当時の“常識”に逆らうことが多く、後日、関係者に多々迷惑をかけていたことを聞かされ、お詫びしたのでした。
具体的な内容は、いわゆる「研究」成果と日常の生活「実践」との狭間にある疑問や不合理について、「人間たべること学」(本書23ページ)の視点で書き出し、自分流の提案をするなどでした。
例えば、第1回「子どもの にんじん観」では、“偏食「矯正」への不審”(本書20ページ)の観点からの疑問を書きました。人参を厭がって食べない子に “人参だとわからないように細かなみじん切りにした人参料理”を供し、(人参が入っていることを知らずに)食べた子どもたちに ”人参を食べた! 人参が食べられるようになって、えらい! 栄養指導の成果だ”などと評価し合っていることへの疑問・反論でした。好きになることを強要され、嫌いだと正直に発言することをたしなめられ、不当な評価へつなげられる、等です。
“好き・嫌いは人それぞれだから、どちらでもいい。でも健康のことも考えると人参は多彩な栄養成分を含み、全身の代謝を円滑に進める事に有効な食材だから、人参料理を食べることは健康づくりにいい。さあ、あなたはどうしますか?と問いかける提案でした。雑誌の公表直後から栄養学・栄養指導分野の先輩たちの叱責を受け、さらに険しい旅路になったことが思い出されます。
50年を経過した今でも、“偏食矯正”指導法の好事例として“みじん切り人参料理”を挙げている教科書や食育教材が少なくないです。「子どもの人権」を守る点から身近な食卓で考え合う、「種」がうまく育っていないこと反省します。
第2回から、「実践と実用」「一つの食物、多面的な見方」「食事の変化しやすい性質と変化しにくい性質」「“個人差”をふまえるために」等、順不同に、たどたどしいテーマが続きました。
ほぼ同じ時期、1972年1月から出発した月刊「学校給食」の「食事指導論」(1年間連載)がほぼ並行して公表され(本「つぶやき」(12月24日)で紹介)、人間主体で、多面・多様な食物・食事・食生活の特徴を活かした、栄養教育論討論のたたき台になったことは、ありがたいことでした。
ⓒ 1974年、全国から集まる行政栄養士研修会での講義録をベースに、管理栄養士養成等の教科書『公衆栄養』(編集 鈴木健、発行医歯薬出版)の分担執筆をしました。厳しい旅路で書いてきた“種”(概念図を含む)をフル活用し、第3章「食の生態学」で「人間の食生態」と題して、「ヒトの食べる営みに影響を及ぼす食生態系の条件」「“人間”と“食物”の基本的関係」「食事づくりの手順」「人間社会における“食“活動」等、総括した内容でした。
さらに第4章「公衆栄養診断」では、「地域の食の営みの図」をとその実践現場での循環的活用PDCに「その人にとって望ましい理想像を描く」を位置づけ、「食生態調査」と名付け、現在では多くの人が活用しているPDCAの先駆け提案の機会をいただいたのでした。(本書6章5))
「人間・食物・環境とのかかわりの図」「地域の食の営みの図」概念図の名称を変えていますが、ⓐの「食生活論」の121ページに掲載されたので、学生や仲間たちには「121ページの図」という愛称で、それぞれの旅路で、使っているようです。
この図を元図に、「地域における共食と食を営む力と生きる力の形成の循環の図」(本書11ページ)を、そしてコロナパンデミックに触発されて「共食の地球地図」の提案へと旅の
視界を広げたり、組み合わせたりしてきたことになります。

実は今、(これまでの旅で重ねてきたいろいろの“種”をふまえ)実践と研究の両面から苦難の道を超えてきた若手(中手?)のセンスやパワーで再構成した2冊の本の出版準備中です。

今までに増して、多くの方々や組織に支えられることに感謝しつつ。