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ごあいさつ

女子栄養大学の退職記念国際シンポジュウム「共食と孤食のあいだ」の懇親会の時でした。1983年NHK特集「なぜ一人で食べるの」を担当してくださったデレクターM氏が酔いの勢いの中、「先生のつぶやきはとてもいいので、書き溜めてほしいな。構えて書いた文章だと、それが消えてしまう」と言ってくれました。褒めていただいたのか、叱られたのか、両方なのかその夜、この言が気がかりだったようで、それまでにいただいた似た発言がいろいろ思い出されました。例えば、教え子の一人Hさんの博士論文が仕上った時に、「研究経過のデスカションで、いろいろ話してくださったことが、そのときはわからない。後になるととてもよくわかってくるので、先生の愚痴のような、くりかえしの言葉をそのまま記録できるといいと思ってきました。整理された文章になると、そのあたりは省略されて、無くなってしまうので」と。

私自身、研究会、研修会や講演会の帰路、電車の中で、不十分だったことを悔いたり、反省したり、わびたりしながら、新しい課題やうまい解決法が発想されるのですが、いざ自宅の机に座ると書けないで悩むことも少なくありませんでした。敏感に感じたり、強く思ったり、激しく怒ったり、じわーっと泣きながら喜んだりする様々のことを、構えずに、順不同でよい、そのまま吐き出すと本音が出てくるのですが……。だから、まとまった本や論文という形でなく、発想するままの言葉の中に、言いたいことの核心というか、自分らしさがあるようなので、その内容を使って、仲間と議論できるといい、と考えるようになっていたことに気がついたのでした。日記や自分のメモ帳から、一歩出て、仲間や多くの人々と意見を交わせたらありがたい、と。

一方、論文にするほどの内容でないのに、栄養・食育活動や栄養学研究等で役に立ちそうなささいな情報、でも新しい視点や方法論が潜んでいるようなことを、思いつくままに書く。それを自分も含めて自由に展開して活用していけたらいい、という、ささやかな期待も溜まっていました。このような、あいまいな、でも正直な気持ちのまま、このホームページを開きます。今、世界中が、日本も、自然も社会環境も不安定で、日ごとに悪化しています。生活している一人ひとりが、どこかに吹き飛ばされたり、流されてしまいそうな危機感もあります。こんな時だからこそ、正しい情報をしっかりとらえ、自分(たち)で考え、必要な判断をし、実行できる人間が一人でも多くなることが重要です。私は栄養学を学び、食生態学を提唱し、進めてきた一人なので、こうしたことを「食」から実現できるようにと、すすめていきたいと願います。

1992年「世界栄養宣言」で“安全で、栄養的に望ましい食物へのアクセスは一人ひとりの権利である”と批准され、全世界がそれぞれの国や地域の実情に合わせて実行中です。2025年までの達成に向けた「世界プレミアム宣言」の各項目のゴール達成に向けて、栄養・食分野が果たさなければならない課題が多く、そのためのネットワークや連携作りの充実、それを支える専門分野の研究・実践両面の充実が強く求められている中での、緊張したホームページ “つぶやき” の出発です。

足立 己幸