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2022-05-08

「食生態学」の創生期に重要な指南をしてくださった小原秀雄女子栄養大学名誉教授が永眠されました

今日、食生態学の若手研究者のひとり衛藤久美から知らせを受け、すぐ、香川明夫女子栄養大学学長から「小原秀雄先生の訃報」の連絡を受けました。2022年4月21日、94歳で、老衰と書かれていました。

いつかこの日が来ることを覚悟はしていましたが、とても悲しく、感謝でいっぱいです。心から心からご冥福を祈ります。

1960年代の後半になりますが、私たちが栄養素摂取中心だけでない「人間らしい栄養学とは?」「人間らしい栄養教育とは?」を求めてさまよう中、厳しい質問や助言を次々に投げかけてくださいました。

「栄養」というけど、君の強調する「食」とどう違うのか?

「人間らしい食」というけど、「他の動物の食」とどう違うのか?

「食行動」というけどその内容は?どんな行動から成り立っていると考えているか?

それらはどう関連しあっていると考えているのか?

「環境が違う」というが、環境の内容は? 食の特殊性を作り出す環境とは?

栄養「指導」と栄養「教育」は同じか? 君のいう「地域の栄養活動」との関係は?

「共食・孤食」にこだわっているけど、君のいう「共食」の「共」とは?等々。

お会いするのが怖くなるほどの質問攻めでした。

そして、強調されたのです。研究はそのキーワードの概念規定を明確にして出発し、途中で間違っていることに気づいたら修正を明確にして、積み上げていけばいいんだ。その自己否定の連続が基本的な研究成果や普遍性の高い(多くの人に役立つ)研究成果になるはずだ、と。

当時の学長だった香川綾先生は、側でこうしたはげしい問答を聞いてニコニコして、「面白いね」とおっしゃっていたことが思い出されます。

今、思い出すままに書きましたが、50年を経過した今でも、どれ一つも、自分で納得できる概念規定や概念図構築ができず、苦しんでいる私です。でも、驚くことはほとんどすべての質問について、1960年代や1970年代に試行錯誤で書いた概念や概念図が、今、食生態学の課題発見や課題解決への仮説設定の基礎に役立っていることです。甘く見て、今65点ぐらいの概念や概念図ですが、これからも少し頑張って、70点ぐらいにしたいと思います。

栄養素摂取中心の栄養学からの脱皮を目指した「食生態学」へ地球サイズの生物生態学のコンセプトや方法論を注入してくださった小原秀雄先生の先見性は、今世界中の合意を得て、多様なアプローチが実行されているSDGsの方向としっかり重なっています。

うれしい追い風を受けて、食の特殊性を発揮しながら頑張ってみたいと思います。私も86歳になりましたが、実力を重ねた若手世代が少しずつですが育っていますので、どんどんつながっていくことを期待してください。

小原先生に心から感謝し、心からご冥福を祈ります。