食育と和食文化の融合
第8回日本食育学会の特別講演は新型コロナウイルス感染症拡大により、参集による開催が取りやめになり、誌上開催になりました。
田中弘之会頭をはじめ関係者の方々は精力的な準備をしておられましたので、無念のことと思います。
私も総会特別講演の機会をいただき、張り切って準備をしておりましたので、とても残念です。
とりわけ、新型コロナウイルス対策の一環で、自宅での食事の機会が増える中、マスメディアやSNSで関連する食情報も多くなり、全国的に、家族ぐるみで「食」への関心が高まってきたことは、ありがたいことだと受け止めていました。
しかし、ほとんどが「料理」情報で、肝心の「食事」情報が少ないことを嘆き、「食事」についての基本的な発言が必要だと、悶々としておりました。
日本食育学会での特別講演は、貴重な機会でしたのに。
昨日、誌上開催の講演要旨集が届きました。
「日本の食・食事でとらえることの大事さ」検討のたたき台にしていただければ幸いです。
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特別講演Ⅱ「食育と和食文化の融合」
足立 己幸
女子栄養大学名誉教授・名古屋学芸大学名誉教授
はじめに:本学術大会のコンセプト“つなぐ、織りなす”に触発され、本講演では、人間の「地域での食の営み」、「食行動」や「食事」自体が、しなやかでたくましく“つなぐ、織りなす”でつくりだされていること、そうした食の本性を最大限に発揮する「食」育が望まれていること、その実現には、日本人の食生活文化の基礎になってきた和「食」の底力発揮が必須であることを、具体的な事例を共有しながら、考えたい。
1.実践現場から求め続けてきたのは「食」育
○“私や家族は、何をどれだけ、どのように食べたらいいの?”の質問に、その人の生き方、くらしや地域とのかかわりの中で、実行できる答え探しを支援したいと「食生態学」を創設し、仲間づくりをすすめてきた。栄養素や食材料だけでなく、グーッと人間につながっている「料理選択型栄養・食教育」の提案。その具体的な方法は日本人が生活文化の中で育くんできた、和食の智恵「主食・主菜・副菜を組み合わせる食事」にあった。栄養、味、食生活力形成、共食、食材自給率などの各面がプラスにつながっていることを検証し、栄養・食教育/活動につなげてきた。1食のエネルギー量を弁当箱のサイズで選び、主食3・主菜1・副菜2で詰め合せる「3・1・2弁当箱法」開発は「適量でおいしい1食」が簡単に準備でき、世代を超え、栄養リテラシーの差を超え、家族や仲間がつながりやすい。栄養素や食材料選択法を包み込んだ「食事」育であり、「食」育であり、多くの実践の輪をつなげている。
○「地域の食の営み」の循環全体がうまく回ることを視野に、自分(たち)の得意技や役割を確認し、質の高いつながりを果たす。生産から食卓まで、生きる力、地域力の形成、次の労働力形成へとつながり、高まっていく。まさに、「食のパーツ育」から、パーツのつながりを重視する「食」育の具体的視野である。
2.今、日本の行政や教育がつながって、全国展開をすすめているのも「食」育
例えば、食生活指針(2000年、2016年一部改訂)、食事バランスガイド(2006)、食育基本法(2006)、健康日本21(第2次)(2013)、第3次食育推進基本計画、たのしい食事・つながる食事(2016)、健康な食事(2017)、日本の栄養政策(2019)、等々。
3.国際的に評価されてきたのは和「食」
○ユネスコ世界無形文化遺産登録の要件は特定の和食材や和料理だけでなく、和「食事」や和「食文化」
○国際学会や国際協力で評価が高いのは日本各地の「地域性を活かした食事法やその食環境づくり」。
4.今、全世界がゴールを共有し、その達成に貢献できるのは、“和「食」を活かした「食」育”
○SDGs の「5つのP」と17のゴールのすべてにつながる
○世界中に浸潤する「新型コロナウイルス」の感染拡大防止も発症防止も、ひとり一人の健康力と人々のつながり力への期待。
これから:「東京栄養サミット2020」、「東京オリンピック・パラリンピック」「第22回国際栄養学会」「第8回アジア栄養士会議」、等次々に“日本の食の魅力”発信のチャンスが来ている。この機に、“「食」育と和「食」の融合”の魅力、それを支える日本「食」育学会への期待を実現させたいと願う。
【プロフィール】
NPO食生態学実践フォーラム理事長。管理栄養士、保健学博士。1958年東北大学農学部卒。東京都保健所・衛生局技師等を経て、1968年より女子栄養大学へ。教授、大学院研究科長等を経て、2006年から名誉教授。同年から名古屋学芸大学大学院教授、2011年から名誉教授。同大学健康・栄養研究所長。この間、ロンドン大学人間栄養学部客員教授、カーテン大学公衆衛生学部名誉教授、厚生省「食生活指針」策定委員会委員等。
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