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2014-08-28

日本栄養改善学会シンポジウム“地域栄養(学)は難しいけど、面白い”をめぐって

8月21-23日と、パシフィコ横浜で、第61回日本栄養改善学会が開催された。神奈川県立保健福祉大学長中村丁次学術総会長はシンポジウムの一つに「実践栄養学は面白い」という画期的なテーマを挙げられ、なぜか私がシンポジストの一人に指名させた。もっと若手を・・と強く辞退したが、足立が面白そうな第一候補だと押されて、仕方なく引き受けることになった。

いつも、雑誌原稿や講師依頼を受けたときには指示されたテーマに忠実(?)に内容を考えることにしているので、今回も“面白い”の意味を始め、かなり真剣に考え、大学生時代にさかのぼって面白かったことをカードに書きだして分析するなど、細かな作業を経て、後段にあげる内容の50分スピーチをさせていただいた。

結果、私は地域栄養活動(公衆栄養活動を含む)とその体系化を狙う地域栄養学(公衆栄養学を含む)は、基本とする“住民参加“(企画から評価まで住民主体の参加)でゴールや方法を検討し、多様な異職種・異専門分野の連携・協働のチーム力を発揮して、その評価も住民と進める評価であることが重要なので、”難しい”。しかし、この水準に高まりあうことが果てしなく“面白い”ということを強調した。

臨床栄養の足立香代子一般社団法人臨床栄養実践協会理事長は、具体的な実践を例示しながら専門性の高い臨床栄養士の社会的評価獲得のプロセスを、参加した学生たちに紹介するように話をすすめられた。

一方、徳島大学大学院の二川健教授は所属するNASAの宇宙飛行実験の事例を紹介しながら、無重力環境での筋蛋白質代謝と栄養研究を紹介され、これからの栄養学研究・実践には医科栄養学の教育が必要であると強調され、栄養学の輝ける選択肢にしてほしいと参加学生に呼びかけられた。
座長の一人はこうした状況に対応するためには大学入試時にいわゆる偏差値の高い、優秀な(?)学生を栄養学分野に集める必要があるといった発言も出され、うなずく参加者もいたようだ。

話題は実践や学問の“面白い”論からどんどんはずれ、臨床管理栄養士の養成カリキュラム、中でも医科栄養学のカリキュラム奨励に矮小化していった。私は医学の中の(または医学を追従する)臨床栄養学でなく、(地域に生活する人間重視の)臨床栄養学の基礎としての医学ととらえ、また食からの地域包括に向けて、地域栄養・臨床栄養・給食管理システム等の積極的な協働の視野の中で、これからの臨床栄養に新しい役割を期待してきた。が、これらの基本的な議論を経ずに、医科栄養学の提案にシンポジウム全体が進んでしまい残念でならない。(管理栄養士養成やそのカリキュラムについての議論なら、管理栄養士のマインドやコンピタンシーを含む発題や資料の共有を基にすべきであり、この点からも狭くて浅い話題に留まっていた、と思う)

本シンポジウムでは臨床栄養(学)と地域栄養(学)を対置させながら栄養学の特殊性や人間生活・社会への貢献等を議論できる好機と期待していた私は、何度か発言しようと考えたがそのチャンスを得ず、シンポジストとしての最後の一言を発言する機会も得ず、終了してしまった。

終了後、私はお二人の座長にその労をねぎらうこともせず、議論がずれていったことの不満を申し上げてしまった。(申し訳ありませんでした。シンポジストである自分自身を含めての責任であります)

しかし、出口で、「やはり、臨床栄養学が一番格好いいね」という学生グループの声、「地域栄養や公衆栄養は苦労ばかりで、効果が見えにくいから、足立発言のように“難しい”・・・」という行政栄養士の声、「日本栄養士会の役員層はさまざまな分野のバランスを失っている。次第に“栄養士”会ではなくなるのが心配」というベテラン栄養士の声、等々が耳に入ってきた。
地域栄養(学)を担っている人、関心を持っている人や期待して参加してくださった方々に、申し訳なくお詫びいたします。

足立の発言内容は、地域栄養(学)は“難しいけど面白い(・・・)”を話したかったのに、逆に難しいので面白さを感じることができない方向が強調されたのだろうか?
私はこのシンポジムは教育講演でなく、単なる実践報告でもなく、栄養改善学会という学会が提案する「実践栄養学論」の場と理解して内容を吟味してきたつもりだが、現実のニーズは異なっていた様だ。
熱心な学生たちが多く参加していたのだから、もっと現場の具体的な“面白い”事例の紹介が必要だったと反省している。

さまざまな現場(国レベル、都道府県レベル、市町村レベル等行政の場、コミュニテイ、機能団体や組織等)で、地域のサイズや観点を異にしつつも地域栄養マネージメントや政策決定等重要な仕事をすすめ、しかるべき水準の効果を上げ、医療や福祉分野を含むまさに地域全体、国全体の栄養・食・健康・生活の質の向上に貢献してきた多くの先輩や同僚や若い専門家の実践事例が国内外で蓄積しているのだから、それらをもっと具体的に紹介すべきであった。これらについては周知の事実として、それらを包括する形で、地域栄養のあるべき論と、その実現へのもう一歩前進のための“反省と対策”を優先して話をすすめてしまい、“面白い”の共有ができにくかったと反省する。

地域栄養に関わる多くの方々へ、心からお詫びします。
せめて、今回のシンポジウムがきっかけになって“地域栄養(学)は面白い!”の議論が広がるように、よろしくお願いいたします。

以下、参考までに、当日のシンポジウムで「地域栄養学は難しいけど、面白い」コアとして取り上げた4点とその事例のテーマだけを付記します。関連の方々との討論等に、活用いただければ幸いです。

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