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2024-09-13

若手学会員から『共食と孤食―50年の研究から未来へ』やその書評をめぐる質問・感想・署名要請などを受け、その場で小討論の環ができるなど、“書評の威力”に感謝です

先週末の日本栄養改善学会総会でもそうでした。

「要旨集に、先生の名前が書いてあったので、お会いできると思い、本を持ってきました。何回も読み直しています」とサインペンと一緒に差し出した子育て中の研究者、「この本を読んで、学生たちに『自分の研究テーマから見た自分史』の事例で講義がしたくなりました。やってみます」と中堅の大学教員、「『共食からの地球地図』で、就職先の迷いの原因が見えてきました。転職希望を取り消しました」と食系企業の男性社員等、思いがけない申し出にうれしく、緊張した次第です。

多くが読むきっかけは関連の学会誌、専門職種の機関誌、関係するNPOやプロジェクトのニュースレター等に紹介いただいた「書評」です。それを読んだ人からのすすめ、それを感謝しつつ再考を試みる過程を書いた本ブログ“つぶやき”欄などにつながっていました。身に余る書評をいただきながら、このブログできちんと紹介できずにいる「書評」もあり、お詫びをし、紹介させていただきます。

限られた1部になりますが、そして順不同ですが、討論に供したく、感謝を込めて、紹介します。

A 塚原丘美氏から

名古屋学芸大学健康・栄養研究所年報、第15号、87-88(2023)

 病院管理栄養士を経て現職の名古屋学芸大学・大学院 塚原丘美教授が、専門の臨床栄養学をふまえつつ、日本栄養改善学会理事長や日本栄養士会副会長としての広い立場から、丁寧な書評を書いてくださいました。

とりわけ、「食の営み」の概念図やその形成に注目することの重要性を強調し、これらの理解ができると、複雑で多様な現実の営みのダイナミクが見えてくること。このことが逆に、概念図の理解を深め、さらに、現場での具体的な問題解方法や専門家としての活動の視野・視点の充実につながるなど、双方向の関係全体にあることを強調した内容を、学生にも理解しやすいよう、丁寧な紹介をいただきました。  

B 宍戸佳織氏から

日本生活学会「生活学論叢」、44.29-30(2024)

日本生活学会は1972年、今和次郎を初代会長として、生活をめぐる多分野の(研究者というより)“学者”(細分化する研究で、そぎ落とされてしまう部分も包括して生活そのものを知りたい・在り様を明らかにして・その実現へと実現したい!と願う)たちが寄り合い、画期的な設立趣意https://lifology.jp/で出発しました。

当時私も、食生態学創設の奮闘さなかで、1976年から入会し、1981年から理事の仲間に入れていただき、学会長等を経て今、名誉会員です。理事会の討論は学会運営よりも“生活とは何か”について、理論と現実の間にこだわる学際的な議論ふつふつでした。閉会時間になってもだれも立ち上がらないときもしばしばでした。議論の論点は食生態学としっかり重なりました。「共食と孤食」研究・実践の方向や方法検討力も、理事会議論の積み重ねなしには、育たなかったと思います。現学会長世代は当時の学際的な討論の渦の中で育った子ども・孫世代が中核で、激動する世界や地球環境下で奮戦していると言えましょう。

今回、「生活学論叢」に書評をいただいたことは、こうした背景の中、感慨無量で読ませていただきました。食だけでなく、個人だけでなく、「一人ひとりのくらしづくり」「まちづくり」「地域」計画、国際社会や地球丸ごとの中での“共食・孤食”議論のたたき台にしていただけるからです。

評者の宍戸佳織氏は短期間ですが、食生態学研究・実践の仲間であったことから、指摘の内容も細部に踏み込んでいます。特に、食生態学の共食・孤食研究は結果報告が「理論書に留まらず、具体的な活動のガイドブック(例えば、「共食の地球地図」の自分の役割探しマッピングなど)作成や活用も提案する」と評していただき、これこそ“日本生活学会流”と感謝した次第です。

C 栗原修氏から

「さかな丸ごと食育」ニュースレター、No.18(2024)

評者は、水産振興事業への取り組みを通じて、水産業の発展と国民生活の向上に寄与することを目的とする一般財団法人東京水産振興会の参与です。まさに魚から「海も含める地球の食の循環」の全体を展望する広い視野から、書評をいただきました。

フードシステムと食情報交流システムの両面から討論され活動計画が創出・実施される。環境変化がすすむ中、多職種の人々がかかわりあい、それぞれが抱える課題やコンセプトの重要課題について、“共有できる「概念の確認や柔軟な展開」の重要性”に注目した呼びかけです。課題が広いほど、関わる人が多種多様であるほど、連携の輪が広がるほど、そうした中で地域性や個性発揮が必要であり、こうしたときほど“共有できる“キー概念、それを用いたゴールが必要だ、と。さらに、「水産振興オンライン」でダウンロードし、国内外多くの人々使える情報交流システムによる発信なので、本書の内容の吟味が重要であると指摘くださったようで、緊張して受け止め、感謝いたします。

D 江原絢子氏から

Vesta No134(公益財団法人味の素食の文化センター編)、74-75.(2024.SPRRING)

評者は東京家政学院大学名誉教授で、日本の「食文化史」「食教育史」研究について、史事実を俯瞰しつつ、他方、注目した事象(特に食事、それを構成する料理)をち密に検証する方法を開発しつつすすめています。そのプロセスをふまえて、現在や将来の食のあり方を評価・展望し、現場の教育や社会活動につなげていく、第一人者です。

実は2001年、「食の文化フォーラム」第19巻「食と教育」の編者(江原絢子氏)からの要請で、私は第Ⅱ部「教育から学習へ」の第3章「栄養指導から食の学習・食環境づくりへ―国内外の多様な実践に学ぶ」と題して、「食生態学」丸出しの視野・視点で執筆し、寄稿しました。

この時に江原教授の食の歴史観に触れ、敬意を持ち、2016年発刊『和食の教科書』(足立己幸編著、文溪堂)では児童書なのに(いや児童書だからこそ)日本の和食の歴史(概要だが正しい俯瞰図を描けるように)執筆いただきたいと、お願いしたのでした。

今回の書評では、「共食の地球地図」について、「個人から家庭、地域、国から世界へと広がる俯瞰図である」と。そして、誰でも手書きで描きやすい、楕円で・内接円を使っているので、「科学の客観」と「人間の感情や関係性などの主観」とのバランスをどうとるか、多様な分野の専門家が議論する場が多くなること期待したい、と。過大な期待を具体化する宿題が増えました。

E 尾岸恵三子氏から

食生態学-実践と研究、Vol.17(2024)

冒頭、「本書は『食生態学』を学問としての構築から発展へと大きなうねりを見通すことができる書である」の一文に感謝・感慨無量でウルウルしてしまいました。

書評文の最後に書いてあるように、評者が大学院入学当時は現職の病院看護師・その専門家養成を担う者として、“しっかり寄り添った看護と日常の食生活支援は切り離せない”ことに注目し、「食生態学」を学びました。そして、着々と「食看護学」という新分野を創設し、多くの仲間と日常の看護活動をすすめてきています。当時、形式上私が指導教員で、評者は大学院生(現職のまま)でしたが、食生態学と看護学の両輪車を、多くの仲間たちと一緒に押しながら、内部や周辺の環境整備もしながら、両分野を充実し合い、仲間づくりをし合ってきた“同志”という方が、事実に近いです。

具体的なテーマや道のりは異なりますが、一人ひとりの人間重視・環境とのよりよい共生重視・それぞれの実力発揮を組み合わせながら、それぞれのゴールに近づいてゆくすすめ方を検討し合う大きな地図は食生態学も食看護学も双方向から重なり合ってくる……ことを確認し合い、奮起し合う書評と受け止めました。感謝いたします。