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2018-01-26

イラストが問いかける共食と孤食の「間」

共食、孤食については1970年代の後半「人間らしい食」を研究模索しつつ実践する「食生態学」の創設期からこだわってきた。「何を食べるか」だけでなく「どう食べるか、とりわけ誰と食べるか」が食事内容や食べた結果に直接影響するなど課題が大きいことを明らかにした。
この時に、家族と一緒に食事をすることを「共食」(キョウショク。トモグイでない)、ひとりで食事をすることを「孤食」(はじめは「ひとり食べ」。しかしカタカナが入る学問分野には公的研究費が出せないといわれて、仕方なくコショク)と名付けのであった。
その後、紆余曲折・試行錯誤を経て、いま共食は「健康日本21」(第2次)や「第三次食育基本計画」を始め多分野の行政や教育分野で行動指針・評価指標等にとりあげられ、全国的に関心を持つ人も多くなっている。
しかし、実行には至らないケースが多く、1週間に1度も家族と一緒に食事をしない小学生が15%以上を占める深刻な現状も報告されている。
成長期の心身の形成に及ぼす、取り返しのつかない負の影響などを心配する私たちに、「受験が終わったらちゃんと一緒に食べるから大丈夫」とか「うちは親子の話し合いの時間を決めて実行しているから、食事の時には必要ないから心配ない」等子どもたち自身が説明をしてくれる現状を含めて、共食・孤食をどうとらえ、日々の生活に位置づけていくのかに未解決の課題が多い。

一方最近、食・健康・教育等からやや離れているように見受けられる分野から、共食・孤食の取材が増えている。
「建築知識」2018年1月号の創刊60周年記念特集―100歳までヒトが元気に長生きできる住まい―もその一つ。若い男性Y記者の基本課題を直撃する質問がメールや電話で繰り返される熱意に負けて、11月のある日小さな喫茶店で取材を受けた。
メールでたびたび「家族との共食頻度にこだわる人は多くなったが、共食の質が低くなっていると繰り返されていましたが、「共食の質」とはなんですか?」だった。
私が積み残して悩んでいる課題に、直球の質問であった。
取材の終わりに「使えるページは見開き2ページだけなので、今日伺った話をイラストで描きたいです」と。もちろん大賛成した。イラストレーター・Y記者から素案を見せていただき、共食のコンセプトに直接触れることや事実関係のチェックをさせていただき、数回のやり取りの結果、この素敵なイラスト(力作)が掲載された。

共食イラスト平井さくら
出典:建築知識2018年1月号 創刊60周年記念特集「100歳までヒトが元気に長生きできる住まい
イラスト:平田さくら

たくさんの間取り図やそのバックデータ満載の1冊の月刊誌の中に、ひときわあたたかい食事風景が1ページ(A4版)の半分を占める大きさで、描かれており、その「問いかけ力」に感じ入った。
特に左下の「しーん これは共食?」という貼り付け風の小パーツである。
右上部のイラスト、家族それぞれのやり取りがあたたかく交わされている食事に対して、小さな貼り付けでは、同じ人物が同じ食卓を囲んでいるのに、それぞれに別のことをしながらの食事である(家庭内だけでなく職場やその近くで仲間と食べる昼食も同じ状況がある……)。
このあたたかいイラストが、さりげなく「あなたはどれ?どちらにしますか?」と問いかけてくる。
「この間にもいろいろある……」と。
イラストなので、共食と孤食の間にあるだろうたくさんの食事の姿、それぞれの背景やプロセスを含めて見通せないほど奥行き深く、広い食事の営みがあることも問いかけてくる。

実は私たちが食生態学を視座に進めてきた共食・孤食研究・実践方法の特長の一つに、1980年代の初めから食事調査法「食事スケッチ法」を開発して活用していたことがある。
一般的に食事調査は栄養素摂取状況把握を中心にすることが多いので、食べた食物の種類や量の正確さを優先するために、子どもたちの食事調査の場合でも、食事の準備に関わる母親や保護者が回答者であった。
しかし、その食事が食べる人自身にとって良かったかどうか、どんな問題が潜んでいるかを確かめたい、内的心的な状態を具体的に知りたい目的であることから、心理学分野等で使用されている描画法にヒントを得て開発したのであった。
「昨夜はどんな食事でしたか?食べた物も一緒に食べて人も描いてください」と発問し、当人がスケッチで回答する方法だ。過去の振り返り調査や、「こんな食事にしたい」という理想の食事調査にも展開して活用した。調査の質を高めるために、10問程度の質問紙調査を加えており、さらに、さらに描かれた食事スケッチを当人と共有し、インタビューでの確認をする方法である。描かれた食事スケッチの、一枚一枚が描いた人の気持ちと現実の行動の間等、無数に近い色合いを表現しており、調査者の視野を超えたさまざまな問題点を浮き彫りにしてくる。そのスケッチを広げて、当事者と専門分野の知識やスキルを重ねながら「私は何をどのくらい、どのように食べるといいか、合っているか」の答え探しをすることになる。

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イラストが問いかける共食と孤食の間の間の間や、気持ちと現実の間の間を見落とさないで「人間らしい食事」の答え探しをしたいです。

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